家畜用抗生物質と人の健康

家畜用抗生物質の使用が、人の健康を脅かしているとの香港大学での研究結果が、香港の新聞紙上に大きく報道されている。

抗生物質は、家畜の成長を促進したり、未然に家畜の感染症を予防する目的で、家畜飼料に日常的に混入投与されている。香港で報道されているので中国の家畜が特に問題というわけではなく、日本やアメリカでも同様の問題を抱えている。

抗生物質は感染症の治療に必要量のみ用いるものであって、その予防に使うことは本来の目的ではない。狭い場所に多くの家畜を飼育し効率よく食肉を生産しようとすると、感染症が発生した場合に短期間のうちに家畜が全滅するリスクも生じる。そのためリスク低減の為に予防的に抗生物質の投与を行なう必要があるわけだ。そのほか簡便に増収につなげるために成長促進させる目的のためにも抗生物質が使用されているのが現状だ。

世界的には家畜への予防的抗生物質の使用を制限する方向にあるが、農業団体の反発も強く規制強化の動きは遅れている。
その一方でヒトの感染症における薬剤耐性菌の出現が医療界では大問題になっている。つまり治療の切り札となる抗生物質が効かないため、死ななくても良い患者が死に至るケースが後を絶たないのだ。これは家畜に大量に使われた抗生物質のはたらきで、家畜の体内に耐性菌が生まれ、何らかの理由でヒトに感染してしまったことが考えられるほか、食肉を喫食する
ことで、肉に含まれる抗生物質をヒトが知らずに摂取してしまうことで人の体内で耐性菌が生まれることも危惧されている。

感染症対策の重要なカードのひとつが抗生物質だ。アオカビから発見されたペニシリンは多くの結核患者を救ったが、やがて耐性菌があらわれて次の世代の抗生物質にその役割を譲った。その後も多くの抗生物質が発見されたが、やはり耐性菌とのいたちごっこという状態が現在も続いている。院内感染で問題になったMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染対策の切り札ともいわれたバンコマイシンにも耐性菌(VRE)があらわれ深刻な問題になっているのが現状だ。

抗生物質は、家畜にも、人にも、必要なときに適正量を投与するように厳しく制限されるべきであり、現状のような極めて甘い規制を継続することは、人類の生存をも脅かすことになりかねない。その意味では、医療用に使われる抗生物質が突出する日本と香港での使用規制をしなければいけないのではないだろうか。風邪と診断して抗生物質を出すのはやめて欲しい!肺炎球菌などへの感染予防という目的であれば、家畜への抗生物質の予防投与とかわりないだろう。

家畜への抗生物質投与は食糧の供給に関係するため危険な部分と、食糧の安定供給という側面の、両面をみる必要があり、メリットとデメリットを天秤にかけることも必要かもしれない。この点に関しては、消費者も正しく理解しておく必要があるだろう。単に危険だから抗生物質使用反対というだけでは通用しないことは確かだ。