病原性大腸菌食中毒

日本の焼肉チェーン店で腸管出血性大腸菌O111と、同じくO157による集団食中毒事件が発生し、4人が溶血性尿毒素症症候群(HUS)を発症して死亡しました。O157 は1996年に岡山や大阪の小学校などで集団感染が起きて死亡者も出ていますが、この時にマスコミが大々的に報道したことで感染症としての名前が一般に広がったようです。

今回の集団食中毒で確認されている原因菌であるO111とO157は、細菌の表面たんぱくが少し違うだけで基本的には同じ菌だと思っても間違いはありません。同じ種類の細菌は200種類ほどありますが毒性を持つものとして知られているものはこれら2種類のほかO26など限られたものしかありません。感染すると3~8日の潜伏期間の後、おう吐や下痢といった一般食中毒症状が現れます。下痢便に血液が混じることも特徴です。さらに発症者の一部は腎臓障害(溶血性尿毒素症症候群)や脳症を起こして死に至ります。その意味では非常に怖い食中毒であり、原因食品となる牛肉は確実に安全性が保障されたもの以外は食べてはいけないのです。私自身は、その危険性を理解しているので、レストランでユッケを食べることは、まずありえません。レバ刺しも人気なようですが、レバーは肉以上に危険な食品であり、生を食べるなど私にはとても考えられることではありません。ちなみに生カキも食中毒リスクが高い食品ですが、食中毒の症状の重さを考えて、こちらは「覚悟して」食べることはあります。

O157に関してはしばらく大きな中毒事件が起きていないので、油断もあったのかもしれませんが、今回の一連の報道を見ていると、生ものを扱うことのリスクをレストラン側がまったくといっていいほど認識していなかったこと、そして客としての消費者もほとんどその知識がなかったことが、集団食中毒が起きてしまった大きな原因になっていると思います。

牛肉は生でも大丈夫だとの大きな誤解があります。これはレアのステーキを食べることから来ているからかと思いますが、ステーキ肉はたとえ汚染されても表面だけで、とユッケに使う細切りにした肉とはまったく異なります。ひき肉をつかうハンバーグも危険であることに関しては同じです。O157やO111は牛などの消化管に棲息しており、屠殺場での食肉処理の際に肉表面を汚染してしまうわけです。菌が中にまで侵入することはないので、ステーキの場合はその表面さえ焼けていれば感染の心配がなくなるのです。牛のたたきも同じです。

ハンバーグの場合は中心部まで確実に火が通っていないとたいへん危険です。中が赤いハンバーグが出されるレストランもあると聞きますが、たまたま感染しないだけであって100%安全であるという保証は一切ありません。

ところで馬肉は生食用として流通しています。なぜなのかと疑問に思う人もあるかと思いますが、O157など病原大腸菌は牛、やぎ、羊、鹿といった反芻胃を持っている動物にのみ感染しており、馬には感染していないからです。牛などの動物の消化管の中では病原大腸菌も常在菌としてほかの腸内細菌と共存していますが、いったん人の消化管内に入り込むと著しい毒性を発現します。

日本ではレストランに、生かきは出さない方が良いとのアドバイスが保健所からあるそうです。生かきは古くから食されてきたものであり、ユッケよりも一般的な食品です。しかし、ノロウイルス感染の危険性がら出さない方が良いとの指導があるわけです。もちろん生かきはレストラン等で出してはいけないと法律で決められた食品ではありません。しかし店の責任といって客に出して、たった一度でも食中毒を出してしまったら零細レストランはいっぺんに吹っ飛んでしまします。そのリスクがあるから出さない方が良いとの指導になります。ユッケに使われている牛肉は生食用ではありませんが、これを禁じる法律もなく、店でユッケを提供することは何ら問題がありません。しかし食中毒を出してしまったら店としてはアウトです。しかも今回は複数の死者まで出してしまったわけですから、厳しく責任が問われることになって当然です。

食中毒は、例え食品の鮮度が良くても、味がおかしくなくても、起きるときは起きてしまいます。今回問題となった焼き肉店では店でチェックしていたといいますが、店のチェックなどあてになるものではありません。もちろん一般家庭でも同じです。

今回の集団食中毒事件は、食品に対する衛生管理の甘さが原因となった事件です。飲食店は衛生管理を徹底するとともに、やはり専門知識を持ったうえで責任もって客に食品を提供しなければいけません。また消費者も何が危険なのか、ある程度の知識をもって自衛するべきです。「中国野菜は危険」「日本食品は安全」「牛肉は生でも大丈夫」「新鮮だから安全」「高級レストランだから安全」といったような単なる「イメージ」だけで食品の安全を判断するようなことでは避けなければいけません。