ノロウイルス(新聞記事より)
■ノロウイルス 手洗い徹底が予防の基本 患者の隔離も検討を
◆発病時は十分に水分補給
2005/01/16 大阪読売朝刊・くらし健康・医療面
ノロウイルスによる集団感染が全国各地で発生している。冬の食中毒の主役として知られる病原体だが、広島県福山市の特別養護老人ホームでは七人の死者を出し、人から人へうつる感染症としての怖さを印象づけた。どんな特徴を持つウイルスなのか、どうすれば感染の拡大を防げるのだろうか。
(古川恭一、増田弘治)
★強い感染力
ノロウイルスの第一の感染ルートは食中毒だ。ウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝をよく加熱せずに食べて感染することが多い。ウイルスは胃酸では死なず、主に小腸で増えて、一―二日たって下痢、おう吐、軽い発熱など感染性胃腸炎の症状を起こす。ただし健康な人なら重症にならず、一―三日で回復する。
問題は、このウイルスが便や吐いた物の中に大量に排出され、わずかな数でも口に入ると感染することだ。このため「人から人へ」という第二のルートで感染が広がる。
手などについたウイルスが直接、あるいは食品や食器を通じて口に入るほか、飛び散った吐物や便が乾燥するとウイルス粒子が空気中に漂い、それを吸い込んで感染する。
大阪府立公衆衛生研究所感染症部長、奥野良信さんによると、ウイルスは患者の便一グラムに一億個以上含まれるとされ、ボランティアによる実験では、百個以下のウイルスでも発病したという報告がある。症状が治まった後も一週間ほどは、便にウイルスが含まれる可能性がある。
福山の施設では、発症した時期が一斉でなく、殺菌済みの流動食を利用していた人も発症していた。集団感染の出発点はまだ確定しないが、便や吐物を通じてウイルスが広がったとみられている。
★患者数はそう変わらず
厚生労働省によると、ノロウイルスによる感染性胃腸炎がこの冬、特に多いわけではないという。国は感染性胃腸炎について、約三千の小児科定点医療機関から患者数の報告を受けており、例年、冬場を中心に増える。その多くがノロウイルスだが、患者数は例年とそう変わらない。
集団感染も以前から学校、保育所、病院など様々な場所で多発している。だが、体力の低下した人の多い高齢者施設では命にかかわる恐れがあることが、この冬、各地の事例から浮き彫りになった。
★高齢者施設での対処
感染性胃腸炎に詳しい東京都立豊島病院感染症科医長、深山牧子さんは「一番の予防策は手洗いの徹底。ただ完全に防ぐのは難しい」と話す。
深山さんによると、感染防止の基本は、看護や介護にあたる人が一つの処置ごとに丁寧に手を洗うことだ。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などにも共通する予防策で、これをふだんからきちんとやっていれば、感染リスクはかなり減らせる。手袋をはめて、一人ずつ交換しながら接することも有効だ。
だが、手洗い設備や手袋の数などが整っていないために十分行われないことも 多い。福山の施設でも、オムツ交換時の手洗いが十分でなかったことが指摘され ている。「感染防止は予算との戦い」という面もあるという。
奥野さんは「高齢者施設や学校の調理場などに出入りする人やその家族も、下痢などに注意し、手洗いを心がける必要がある」と指摘する。
★脱水症状を防ぐ
発症した場合、ノロウイルスに効く薬はなく、症状を和らげて回復を待つしかない。特に大切なのは水分補給だ。高齢者は体内の水分が少ないこともあり、下痢に伴って脱水症状が起こりやすいので輸液も必要になる。急に吐くことも多く、吐いた物で窒息したり、肺に入り込んで肺炎を起こしたりする心配もある。
消毒も欠かせない。便や吐物が付着した所は、手袋やマスクをつけて取り除き、塩素系漂白剤か熱湯で処理する。患者が使った物も同様だ。
施設や病院では患者の隔離が必要だという意見もある。北海道・小樽市保健所長の外岡立人さんは、この考えに立ったマニュアルを作成した。「患者のおう吐は激しく、吐物が霧状になって浮遊し、空気感染する。空気の流出しない部屋へ隔離し、スタッフはマスクやガウン、手袋などで防御すべきだ」と言う。
★カキは加熱して
出発点になる食中毒を防ぐことも重要だ。ノロウイルスによる集団食中毒は一九九七年に集計を始めて以降、件数も患者数も増える傾向にあり、二〇〇三年は二百七十五件発生。死者の報告はなかったが、患者数は一万人を超えた。食中毒全体の患者数の36%を占め、原因別で最も多い。
ノロウイルスは便から排出され、下水を通じて海に入り、カキなどの二枚貝で濃縮される。そこからまた感染するというサイクルを繰り返す。「加熱用」と表示されたカキは汚染されていると考えるべきで、「生食用」もウイルスがいないという保証はない。
食べる時は表面に火を通すだけでは不十分で、60度程度ではウイルスは死なない。調理したまな板や皿などから生野菜などに付いて感染することもあるので注意したい。
【感染予防のポイント】
・カキなどの二枚貝は十分に加熱する(中心温度が85度で1分以上)。とくに「加熱用」と表示されたカキは絶対に生で食べない。下ごしらえするまな板、包丁、ふきんなどは専用とし、使用後は十分に洗浄・消毒する。
・食事や調理の前は手をしっかり洗う。せっけんでウイルスは殺せないが、手の汚れごと取り去るので効果が高まる。
・下痢などの症状がある人は調理しない。
・感染が疑われる人の便や吐物はペーパータオルで除き、塩素系漂白剤や熱湯で洗う。
【治療のポイント】
・スポーツ飲料や番茶などで水分やミネラルを補給する。1日1.5~2リットルが目安。口から取れない場合は点滴で補給する。
・薬で急に下痢を止めると、ウイルスの排出を遅らせるので逆効果になる。
・1日10回以上の下痢やおう吐、腹痛がある場合、医療機関にかかる。脱水症状で腎臓にダメージを受けると、回復に時間がかかる。(感染性腸炎研究会のホームページなどから)
〈ノロウイルス〉
1968年に米オハイオ州ノーウォークという町で胃腸炎が流行、72年に病原体が発見され、町の名を冠してノーウォークウイルスと呼ばれた。その後、似たウイルスが次々と見つかり、「ノーウォーク様ウイルス」や「小型球形ウイルス」(SRSV)と呼ばれていた。2002年8月の国際ウイルス学会で「ノロウイルス」が正式名称に決まり、厚労省も昨年から名称を変更した。カリシウイルス科に属し、1本のRNA(リボ核酸)で遺伝情報を伝える。
◆情報サイト
◇国立感染症研究所
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_11/k04_11.html
◇ノロウイルス食中毒予防Q&A(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
◇横浜市衛生研究所
http://www.eiken.city.yokohama.jp/infection_inf/srsv1.htm
◇東京都健康安全研究センター
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/noro/
◆主な感染性胃腸炎
◇ノロウイルス
冬に多い。おう吐、下痢、腹痛があり、発熱は軽い。生の貝類による食中毒の ほか便や吐物を介して人から人へも感染する
◇ロタウイルス
冬に多く、主に乳幼児が感染する。水ようの下痢とおう吐が数日続き、発熱と腹痛もある。便や吐物から感染が広がる
◇病原性大腸菌
夏に多く、様々なタイプがある。O-157では腸管から出血し、脳症などで死亡することも。飲食物のほか便から2次感染する
◇サルモネラ
鶏卵や肉類などによる食中毒で夏に多い。抗菌薬が効かないタイプも多い。加熱で死滅する
◇カンピロバクター
肉類による食中毒で夏に多く、少量で感染する。ペットの便から感染することもある
◇腸炎ビブリオ
魚介類についている細菌による食中毒で、夏場に集中する。真水と熱に弱い
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■ノロウイルス感染防止 カキ、やはり十分加熱を
◆検査方法 基準なく対策に地域差
2005/01/23 大阪読売朝刊・くらし健康・医療面
先週掲載した「ノロウイルス」の記事で、消費者の心構えとして「『加熱用』と表示されたカキは汚染されていると考えるべき」と書いたところ、岡山県の卸 業者の方からクレームがあった。確かに加熱用カキのすべてにノロウイルスがいるわけではないが、ウイルス検査は国の基準になく、生産地の自主対策も地域差がある。少なくとも加熱用は、十分な温度で調理しないといけない。(原昌平)
ノロウイルスは、アサリなど他の二枚貝にも蓄積される。近年は食中毒と異な る「人から人への感染」も多発しており、カキだけが原因ではない。「海のミルク」と呼ばれるほど栄養豊富なカキを、短絡的なイメージで敬遠するのはもった
いない。
カキの表示には「生食用」と「加熱用」がある。生食用と表示できるのは▽大腸菌の少ない清浄海域で採取▽カキ自体の一般細菌数・大腸菌数・腸炎ビブリオ数が基準以下▽10度以下で保存――という食品衛生法の基準を満たしたものだけで、採取後にきれいな海水による浄化も必要だ。輸入の生食用カキも同じ基準が適用され、二国間協定で生産の衛生管理を求めている。
しかし昔にできた基準なのでノロウイルスの項目はない。このため主な生産地では、採取前や出荷前の生食用カキを抜き取り、遺伝子増幅法で自主検査している。
広島県では海域ごとに県が月一回、業者団体が週一回、検査。最大手の出荷業者はさらに加工段階で独自に検査している。兵庫県のカキの多くを扱う出荷業者も週一回、検査しており、まだ陽性はないという。宮城県でも県漁連が週一回、検査している。
三重県は二年前から「カキ安心システム」を実施。細菌数の基準を国より厳しくし、紫外線で殺菌した海水で十八時間以上、浄化する。さらにリスクの指標として、〈1〉感染性胃腸炎の流行〈2〉水温10度以下〈3〉カキからノロウイルスを検出〈4〉大雨の後〈5〉カキが疑われる健康被害〈6〉プランクトンからウイルス検出――を挙げ、毎週の状況をホームページで公表している。リスクが高い時は採取をやめたり養殖の水深を下げたりする。
とはいえ、以上の産地での対策はいずれも生食用。ウイルス陽性のカキが加熱用に回されることは多い。加熱用には細菌数の基準もないので、食品衛生法上は問題がない。
一方、岡山県漁連は海域ごとに毎週、海水中のノロウイルスを検査。陽性なら採取をやめる。カキ自体の抜き取り検査も行い、「陽性なら加熱用としても出荷しない」としている。
消費者の安心には、ウイルス対策も加えた基準がほしいが、厚生労働省は「最低発症量が未確定で、遺伝子検査では死んだウイルスでも陽性になるので、基準の作り方が難しい」という。
現時点で一番の対策は加熱だ。加熱用は必ず、中心温度85度で一分以上調理する。他の食材や調理器具への付着にも注意する。生食用も100%の保証はないので、高齢者、乳幼児、体調の悪い人はよく加熱して食べよう。