メタボリックの基準に見直しの議論

昨年4月よりメタボリック症候群対策に重点をおいた特定健診制度が国主導で始まった。これは医療費を削減する目的で導入されたものであるが、当初からその効果は期待できないとする意見も相当あったうえ現場の混乱も大きく、その見直し議論が始まっている。

厚生労働省研究班が日本全国の40歳から69歳(メタボリック健診の対象年齢)の男女約3万人を対象に実施した大規模調査で、肥満でなくても血圧や血液検査値に異常があれば、死亡の危険性が高くなることが明らかになった。

調査によると、確かにメタボリック症候群の場合、心筋梗塞などの虚血性心疾患は、男性で3倍、女性で2倍、死亡する確率が高かったが、たとえ肥満ではなくても血圧や血糖値に問題があればメタボリックとされる人と同様に死亡率が高いことも判明した。なお、日本人の死因で最も多いがんの発症にもメタボとの関係は認められなかった。

研究班の主任研究者である津金昌一郎、国立がんセンター部長は、「肥満重点の対策で期待できる効果は小さく、禁煙や血圧管理など効果が期待できる対策を推進するべきだ」としている。

個人的な意見ではあるが、メタボリック健診は、後期高齢者向け医療費への保険組合や市町村などからの拠出金を多く出させるための手段として、巧妙に考えられたものだと思っている。

メタボリックと診断した者に対して特定保健指導を実施することを義務とし、その効果はもちろんのことメタボリック健診の受診者数が目標に達しなかった場合などは、ペナルティーとして拠出金額を本来より多く徴収することとなっている。反対に目標を達成した場合は拠出金を減額するという、まさに飴と鞭の政策となっている。ところがその効果を達成することも、単純に目標人数を受診させることも極めて困難であることは、メタボ健診導入以前から多くの専門家が指摘していたことだ。しかも医療費を削減するとしながらも、メタボ健診にかかる事業経費も膨大なものとなるため、健康保険組合を解散させてしまったところも少なくはない。またペナルティーを払った方が安くなると考えて、何も行なわないと決めた健康保険組合もあると聞く。

弊社の健康診断でも日本のメタボリックの基準を採用しているが、これはその結果を日本の健保組合などにおいて利用されているケースが多いためだ。弊社ではメタボリックの判定を行なうものの、その結果にこだわることなく循環器系疾患のリスクがある場合はその対象者に解説させていただいている。

「健康診断は決して機械の検査をしているのではない」というのは、私の持論だ。例え同じ数値であっても判断が異なることは少なくはなく、まして便宜的に決められた数値で切ってしまって判定することなど、個々人への診断を放棄してしまったようなものだとも思う。もちろん基準値をもとに診断することは、ある程度まで必要なことであるとはもちろん認めるが、もっと幅を持った解釈をしなければいけないことも確かで、医療者はその点を十分理解しておかなければいけない。

そのあたりを正しく理解したうえで健康診断をおこなうべきであって、数字で区切ることしかできないものが人様の検査結果を論評するなど、行なってはならないことだと断言してしまっては言い過ぎだろうか。

導入から1年が過ぎたメタボリック健診も検査値のみを基準に、機械部品の不良品をはじくがごとく厳密に判定していたのではその意味合いはなく、ましてやその根拠が不確かなものであるのであれば、百害あって一利ないものになってしまう。

健康管理はまさに自己責任であって、メタボリック健診を導入した厚生労働省(国)が面倒を見てくれるものではない。一時は流行語のようになったメタボリック。決して言葉に振り回されることなく、自分自身の健康に常に目を向けておきたいものだ。そのためにもいつでも相談できる「コンサルタント」ともいえる人や機関を持つことが大切だろう。