インフルエンザワクチン・ハンドキャリーの危険性

 インフルエンザワクチンが極端に不足する中、日本からワクチンを香港にハンドキャリーして、それを香港の医師に依頼して接種してもらおうという動きがあるようだ。

 ある会社は、日本の本社からの意向で駐在員とその家族にワクチンを接種するため、30人分を日本で調達してハンドキャリーで香港に持ち込もうとしている。香港では接種に協力してくれる医師を確保したというが、今一度、その妥当性を再考して欲しいところだ。

 先週金曜日の地元紙で大きく報道されているので、多くの人にとっては既知のことかと思うが、中国から正規のルートを経ずして香港に持ち込まれたインフルエンザワクチンを、政府が緊急回収する事態となっている。このワクチンはフランスで生産されたもので、香港でも認可されているものと同じメーカーのものであるが、中国に輸入された後、国内向けに再梱包されたものだ。元の製品には問題がないと思われるが、正規のルートで輸入されていない、いわば香港への密輸品であることと、保管温度(2~8℃)などがきちんと保たれていたかどうかなど疑わしいこともあり、政府が大々的に広報して回収に踏み切った。

 ライセンスを持つ企業にしか医薬品輸入は認められておらず、違法に輸入した者には罰金10万ドル及び懲役2年が課せられる可能性がある。

 ハンドキャリーで持ち込んだワクチンを使用することは法律的な問題が生じるほかに、会社として日本からワクチンを持ち込んで接種する場合は、責任の所在がはっきりしなくなるというリスクも考えるべきだろう。全員接種するよう本社からの指示があるとも聞くが、日本から「不法」に持ち込んだワクチンによって、万が一副反応事故が起きた場合、いったい誰が責任を取るのか? インフルエンザワクチンはあくまでも任意で受ける予防接種だ。それを半ば強制するかのように接種したことは企業に責任が生じることは明らかだ。もちろん不測の事態に際しては、任意であったことを会社としては主張するであろうが、香港に違法にワクチンを持ち込み、それそ使用したということになると、接種した医師はもちろんのこと、当該企業は香港の法律に則って責任を負うことになるはずだ。

 そもそもインフルエンザワクチンはそこまでして接種するほどのものなのか。今季は新型インフルエンザの流行が懸念され、いよいよ流行が始まった際に、感染の機会となるので医療機関になるべく行かなくてすむようにインフルエンザワクチンを接種しようとしているようだ。しかし、インフルエンザは毎年流行タイプが変化しているので、せっかくのワクチン接種が無駄になることも少なくない。昨年流行したものであれば、多くの人は免疫ができているため、ワクチン接種しなくても同じ型のウイルスには感染しにくいこともある。日本ではインフルエンザワクチンの有効性について疑問視する意見も少なくない。

 新型インフルエンザに備えるのであれば、従来のインフルエンザに対するワクチンを接種することを第一に考えるのではなく、流行が始まった場合に、どのように対応するかを今からシミュレーションしておくことの方が大切だ。たとえば、スタッフにインフルエンザ感染が疑われた場合、即座に休ませることができる体制であるのか。業務繁忙でほとんど休みが取れないばかりか残業時間も極端に長くなっている会社もあるようだ。このような状態であっても「強制的」に休ませることができるようなシステムが必要だ。疲労やストレスは免疫力を低下させる。さらに感染が疑われているにもかかわらず、無理に出社すること(させること)は社内での急速な感染拡大につながり、生産性が低下することは明らかだ。

 新型インフルエンザ対策として、まずやらなければいけないことは従来のインフルエンザワクチンの接種ではない。人間の免疫力ほど素晴らしい生体防衛手段はほかにない。この免疫力を最大限に高めておく、あるいは低下させないことが最も大切なことになる。よく言われる「栄養」はとりあえず満たされていると思われるので、あとは休養と運動、そしてストレスマネージメントだ。感染してしまったら、身体を休めることが最も重要なな回復手段となる。

 最後に喫煙者は特に上気道感染症(風邪やインフルエンザ)に対して抵抗力が低下しているといわれているので、何よりも先に禁煙は必要となることを是非理解して欲しい。