抗生物質が効かないサルモネラ菌
サルモネラ菌は食中毒を起こす原因菌の中では最も発生頻度が多いとも言われるもので、日本では年間4000~6000人の食中毒患者を出しているといわれる。実際には家庭内感染で医療機関で食中毒原因菌の特定を受けることなく治癒してしまう軽症例を含めると相当な数になるのではなかろうか。香港では具体的な数字はわからないが、やはり患者発生はかなりの数に上るのではなかろうか。
ところでこれまでサルモネラ菌に特効薬として使われてきたニューキノロン系の抗生物質に対して効果を示さないサルモネラ菌が急増してきた。免疫力が低い乳幼児などでは重症化する場合もあり、厚生労働省の研究班では監視を強めるとのことだ。
サルモネラ菌は動物の消化管内に広く感染しており、食べ物ばかりではなくペットからの感染も少なくないと思われる。これまでの患者も自宅にペットを飼っているケースがあり、飼主がサルモネラ菌中毒になるのとほとんど同じ時期にペットにも同様の症状がみとめられたことも報告されている。このケースでは患者から検出されたサルモネラ菌と、ペットから検出されたものとが遺伝子的に一致している。
これまで日本で認められた薬剤耐性サルモネラ菌は、その多くが乳幼児から見つかっており、中にはニューキノロン系の抗生物質のみならず7~10種類もの抗生物質に効果を示さないものもあたっという。人から検出された薬剤耐性サルモネラ菌は1999年には0.5%に過ぎなかったものが、2006年には4.5%にまで増えており、専門家の間ではこのまま耐性菌が増えると大変なことになると警戒している。
なぜこのような薬剤耐性サルモネラ菌が出現したのかが問題だが、これは家畜やペットなどに大量の抗生物質が使われていることと無関係ではない。畜産業者は飼育している動物に感染症など病気が発生することを嫌い、その予防として大量の薬剤を使用することがある。認可されている薬剤ではあるものの大量に、あるいは継続的に使われれば対象となる微生物(病原菌)が耐性をもつようになることは避けられない。販売用ペットにも安易に抗生物質が使用されている可能性が高い。
抗生物質をはじめ薬剤を大量に使うのは畜産に限らず魚介類の養殖でも認められることである。食糧増産する手段として畜産や養殖が大いに貢献していることは否定できない。日々大量に使われる薬剤がその生産にとって欠かすことができないものであり、そのお陰で我々消費者の胃袋が満たされているとも考えられる。
薬剤耐性サルモネラ菌出現の問題は、食生活、特に先進国における食料の大量消費について考えなければいけない大きな問題であり、なぜこのような問題が起きてくるのか、一人ひとりが考えていかなければいけないことだろう。
なお、サルモネラ菌食中毒は、生卵を食べるという世界的に珍しい民族である日本人にとって非常に身近なものだが、この点については別の機会に書いてみたい。さらに人用の抗生物質使用量では、日本と香港が世界的にみて著しく消費が多いところだという。風邪の診断を受けて抗生物質を処方された経験は多くの人にあるはずだ。風邪に効く抗生物質などありえないが(本物の風邪薬ができればそれこそノーベル賞もの!)、肺炎球菌などに2次的に感染のを防ぐために処方しているものと思われる。このような使用法が正しいとはとても思えない。