2009年H1N1型インフルエンザ流行
新型インフルエンザの警戒レベルが、一昨日発表されたフェーズ4が今朝、48時間にして再度引き上げられ、フェーズ5となった。メキシコ以外では死者が出ることはなく症状も軽いということから、もう少し様子を見るかと思っていたが、この点は私の予想が外れた。一定の判断基準に合致することでフェーズが引き上げられたわけだが、WHOが今回の事態に対して強力に対応するというサインにもみえる。
米国で死者が出たことで事態がさらに深刻になったように一見思えるが、この患者はメキシコで感染して訪米治療を受けていた幼児で、基本的にメキシコのみでしか死者は出ていないとするべきだ。報道も、単に「米国で死者が発生した」とするのではなく、「米国滞在中のメキシコ人幼児死亡」とするべきだ。このような報道の仕方が、社会に対して不安を煽ることになることは、SARSでも学習していたのではないだろうか。
ところで今回のウイルス。これまで「豚インフルエンザ」と呼ばれていたが、今後は「2009年H1N1インフルエンザ」と呼ばれることになる。養豚業に与える影響なども考慮されたのかもしれないが、歴史上、スペイン風邪、イタリア風邪、アジア風邪、香港風邪といったように最初の発生国や地域の名称が通称として使われてきていることから、今回のインフルエンザもいずれ「メキシコ風邪」として一般的には呼ばれることになる可能性が高いだろう。ウイルス名の通称も現在のA香港型ウイルスという呼称にならうのであれば、Aメキシコ型ウイルスとなることが自然だ。
個人的にはフェーズ5になったことよりも、このウイルスの毒性に注目したい。メキシコ以外での死者が出ていないこと(アメリカの幼児は例外)、各国の患者の症状が軽いことから、毒性が弱いこと、あるいは感染を繰り返すうちに毒性に変化が生じている、といったことを私なりに考えていたが、日本の専門家、国立感染症研究所ウイルス第3部長・田代眞人氏は、今回のH1N1インフルエンザは弱毒性であると明言している。弱毒性であることは極めて重要な事実だ。
今後さらに感染が拡大する可能性は高いだろうし、現在感染が確認されている国や地域以外でも感染者がいることは間違いないだろう。もちろん体力の弱い人は、弱毒性ウイルスであったとしても死亡することもある。今後、メキシコ以外での感染者から死亡者が出ることがあってもなんら不思議はない。
メキシコでの初発は3月だと思われている。ある地方の養豚場近くで発熱などを訴える患者が増えていたというから、4月に入る頃にはメキシコ中に感染拡大していたことは容易に想像がつく。当然のことながら多くの感染者が国境を越えていたはずだ。また事情を知らない多くの観光客などがメキシコを訪れている。
一方でメキシコ政府は事実関係の詳細を調査せず(あるいは隠蔽し)、WHOは何の情報も報告することはなかった。事実関係が明らかになり、豚由来のウイルスが疑われるまではメキシコ以外の国々では、弱毒性ウイルスで症状が軽い故、通常の季節性インフルエンザだとして、新型インフルエンザ患者の治療をしていた可能性が非常に高い。
今回のウイルスは、恐れられていた鳥インフルエンザからの強毒性新型インフルエンザとはまったく違う性質のウイルスであることから、今の時点でしっかりと対策をとることが、早期終息させるために重要で、今後も発生が懸念される鳥インフルエンザ対策につなげることが大切だ。
現在、一般個人レベルの対策は、従来のインフルエンザ予防と変わらず、手洗い、うがい、休養、栄養といったところだ。加えて軽い運動を行うことで免疫力の維持につとめたい。この際、禁煙も大切。外出する時間をできる限り少なくするために外食も控えたほうが良いだろう。出張などの移動を制限するのであれば接待禁止は当然だと思う。
私が入っている日本のメーリングリスト(ほとんどが医師)でも当然ながらインフルエンザが話題となっている。過剰反応する医師をたしなめる専門家もおり、ここは比較的バランスがとれている。マスコミは絶対に不安を煽ってはいけない。ワイドショー的な情報に一般の人が振り回されてはならない。SARSを経験した日本人も今では香港に少なくなったが、当時、マスコミ報道に本社が振り回されて、過剰な対策を駐在員に求められたため多くの香港駐在日本人がたいへん困惑していたものだ。正しい情報を収集し、冷静に判断して行動することが、今後さらに強く求められるだろう。