新型インフルエンザ続報

メキシコで発生したと思われる豚由来の新型インフルエンザは、その後世界各国に拡大し、患者の数はWHOの発表では19カ国地域で800人を超えるという。

その一方で、死亡者はメキシコ国内に限られ、唯一メキシコ以外で死者が出たという米国のケースでもメキシコで感染したメキシコ人がたまたま米国滞在中に死亡したもので、今のところメキシコ以外での感染で死亡した例はなく、そればかりかメキシコ以外では患者の症状が軽いなど、専門家も首をかしげるような現象が起きている。

各国で相次いで認められている患者も、メキシコからの旅行者またはメキシコに滞在していたことがある人ばかりで、各国で2次感染した例は今のところ限定されている。香港で認められた第一号患者もメキシコ人だ。

香港の患者は、4月30日に香港に入ってきた翌日には患者と認定されており、その迅速な検査体制とホテル自体を即座に封鎖するなど徹底した対応を即断している。私が見る限りSARSを経験して培われた香港の防疫体制が、今回の新型インフルエンザに生かされて機能しているものと思われる。

本日のニュースによれば、米国での状況が好転していることが報じられるなど、わずかではあるものの豚由来新型インフルエンザに関しては収束に向けた明るい見通しが出てきたのか。

今後の展開には予断は許さないものの、今の段階では、あわてることなく冷静に状況を判断することが求められる。弱毒株であり2次感染がまだまだ少ないことを考えると感染力もそれほど大きなものではないようだ。人類にとって免疫力がないので、感染したらそれでも重症化の危険性がある。予防法などの扱いとしては従来の季節性インフルエンザと同じで良いようだ。引き続き、感染予防には十分注意していきたい。

ワクチンの開発には4~6か月かかるというが、これは予想よりかなり早いといえる。世界中で認められる新型のウイルスタイプが99%以上一致していることが新型ワクチン開発を容易にしているようだが、北半球ではこれから季節性インフルエンザワクチンの製造が始まるため、優先度をどのように決定するのかが重要な判断となる。季節性インフルエンザも途上国を中心に毎年数十万人が犠牲となっており(日本では数百人)、決して軽い病気ではないからだ。うまくいけば季節性インフルエンザワクチンの製造が終了したころに新型ウイルス対応ワクチンが製造できるかもしれない。ただしインフルエンザワクチンの製造には鶏の有精卵が欠かせない。季節性インフルエンザワクチンの製造分しか有精卵の供給が考えられていない。有精卵の確保が問題になるかもしれない。

現在の豚由来新型インフルエンザはあまり恐れることはない。問題は鳥インフルエンザだ。豚由来ウイルスに騒いでいる間に確実に変異していることは間違いなく、これが人類に襲い掛かってくると、豚インフルエンザどころでは到底すまない可能性が大きい。すでに東南アジアでは、豚から鳥インフルエンザウイルスが認められていること、今回の新型インフルエンザウイルスが、人から豚に感染している事実が認められたことなどから、今後、より人に感染しやすい、あるいはヒト-ヒト感染を起こしやすいウイルスに急速に変異する可能性がある。

豚由来新型インフルエンザに関する報道は特に日本で加熱しているが、現状をH5N1新型インフルエンザの出現に備える予行演習的に考えてもよいだろう。
現在、各国の空港などではウイルスの侵入を防ぐため、防疫体制を強化しているが、これは単に患者が自国に入ってきてウイルスを拡散させないための手段というだけではない。各国が協調してウイルスの拡散を防ぐことが大切で、当然自国から患者が他の国へ出ることも予防しなければいけない。世界の患者数をできる限り増やさないことが、次の新型インフルエンザの発生を遅らせる大きな対策にもなることを理解しておきたい。

現在のところ、出国時の検査体制は不完全であるように思う。WHOのガイドラインに沿っているとはいえ、この点もしっかりやっておかないと、ウイルスの輸出につながるばかりか、機内という最も危険が大きい空間での集団感染を起こしてしまいかねない。現状では、感染したくないのであれば飛行機には乗らないことだ。

不謹慎な言い方かもしれないが、現在の新型インフルエンザは感染しても先進国であれば大したことはない。しかし、一人でも患者が増えることが次の新型インフルエンザが生まれるリスクを確実に増やすことは間違いない。不安をあおるような報道にじたばたするのではなく、またマスコミも絵になるような部分だけを切り取った報道などせず、何が問題なのかきっちりと理解できるような工夫をして欲しいものだ。

南半球ではこれから本格的なインフルエンザシーズンを迎えるが今回の新型インフルエンザが今後も増え続けると、季節性のインフルエンザと区別がつかなくなる可能性が高くなり、対策がとりにくくなることが考えられる。

手洗い、うがい、栄養、休養。いつも頭に置いておきたいインフルエンザ予防だ。もちろんその他の感染症の予防にもなる。