退伍軍人症

ここ数カ月、「退伍軍人症」について報道される機会が多く、日本人の方からも質問を受けるようになってきました。私自身もかなり以前から気がついてはいましたが散発的に老人が感染しているだけで、日本人には影響がないものと思い、この医療情報でも触れませんでした。

ところが、先日、教育局長が感染発症。勤務先である新築のセントラルガバメントオフィスのトイレなど多くの場所から原因菌が認められたことで、問題が大きく扱われるようになってきたことで、日本人の関心も高くなってきたようです。

退伍軍人症は日本ではレジオネラ感染症と呼ばれており温泉などの入浴施設での感染例が目立ち、毎年のように死亡例が出ています。もちろん健康な人が風呂に入っただけで感染するわけではなく、高齢者など免疫力が低下した人が特に危険だといわれています。潜伏期間は2~10日間。レジオネラ肺炎を起こし、死亡率は15~30%とされています。

1976年、米国ペンシルベニア州で開催された在郷軍人会に参加した人や周辺の住民221人が感染し、うち34人が死亡したことが、この感染症が発見されるきっかけとなり在郷軍人病(中国では退伍軍人症)と呼ばれることになりました。この時の感染源は、会場近くの建物にあった冷却塔から飛散したエアロゾル(霧状の水滴)にレジオネラ菌が含まれていたためです。

このように感染には水が深くかかわっており、特にエアロゾルを発生させるような状態が危険であり、十分な衛生管理を求められています。香港のセントラルガバメントオフィスでの感染は、トイレが疑われていますが、フラッシュウォーターを流した時には当然ながらエアロゾルが発生しており、その水にレジオネラ菌が増殖していれば当然ながら感染源になりえます。まだ新築のビルではありますが、施設が新しいかどうかなどは関係ありません。

日本では循環式の家庭風呂が問題になり、1996年経産省から業界に対して改善指導がなされています。(翌年から対策済みの24時間風呂のみ販売されています)また加熱しないで霧を発生させる加湿器も重要な感染源となっています。実際、病院で使用されていた加湿器が原因でレジオネラ感染が起き、乳幼児が死亡している例もあるので注意が必要です。

免疫力が低下した人に対しては危険性が大きいもののレジオネラ菌自体、環境中にいくらでも存在する常在菌ですから、通常は恐れるような病気ではありません。エアコンの水がマンションの高層階から降ってくるような香港では、実際問題として確実に感染予防することなど不可能でしょう。感染予防は水回りの衛生管理につきます。一般家庭では最も危険だとされる加湿器の水を毎日取り換えることなどは常識です。またシャワーノズルや水道の蛇口もレジオネラ菌が増殖する場所ですから、時々塩素消毒しておくと安心です。どこまでやるのか、個人の問題ですから何とも言えませんがどんなに頑張っても、様々な病気を確実に予防することは不可能であることだけは認識しておきたいことです。神経質になる必要はまったくありません。